ゴミ屋敷条例に基づき行政代執行が行われた際、最も大きな現実的課題として立ちはだかるのが、膨大な撤去費用の負担である。一軒のゴミ屋敷を完全に清掃し、廃棄物を処理するためには、人件費、トラックの配車費用、そして産廃物としての処分費用などを合わせると、数百万円単位のコストがかかることも珍しくない。条例の原則では、これらの費用はすべて原因を作った所有者に請求されることになっている。これは、公費を特定の個人のために使い続けることは不公平であるという、受益者負担の考え方に基づいている。しかし、ゴミ屋敷の所有者が多額の現金を持っているケースは稀であり、多くの場合は低所得者や年金生活者、あるいは多重債務を抱えている人々である。そのため、行政が費用を立て替えて代執行を行ったとしても、その後に全額を回収できる見込みは極めて低いのが実情である。一部の自治体では、所有者の不動産を差し押さえるなどの強硬手段を取ることもあるが、所有者が亡くなった後の相続放棄などによって、結局は自治体が損失を被るパターンも多い。この費用回収の難しさが、行政が代執行を躊躇する大きな要因の一つとなっている。命令は法的拘束力を持ち、これを無視し続けることが行政代執行への最終的な引き金となる。しかし、放置し続ければ火災や倒壊のリスクが高まり、近隣への損害賠償が発生した場合には、さらに複雑な法的トラブルへと発展する。ゴミ屋敷条例は、所有者に対して自身の管理責任を明確に自覚させる役割も持っている。条例がある街では、放置することがいかに大きな経済的リスクを伴うかを周知することで、初期段階での自主的な改善を促す抑止力として機能している。近年では、費用の一部を補助したり、無利子で貸し付けたりするなどの柔軟な制度を設ける自治体も現れている。所有者の責任を追及するだけでなく、いかにして支払可能な現実的な解決策を提示するか。費用という冷徹な数字を前にして、条例の運用には高い専門性と交渉力が求められている。