ゴミ屋敷問題は、単に個人の片付け能力や怠慢の問題として捉えるだけでは、その本質を見誤ってしまいます。その背景には、非常に複雑な心理的要因や、現代社会が抱える構造的な問題が深く絡み合っていることが指摘されています。ゴミ屋敷を形成してしまう人々の心理状態を理解することは、問題解決への第一歩となります。精神医学の分野では、強迫性障害(OCD)の一つとして「ためこみ症(ホーディング障害)」が認識されており、物を捨てることに対して強い苦痛や不安を感じ、結果として物を過剰にため込み続けてしまうという特徴が挙げられます。彼らにとって、一般的にゴミとみなされる物であっても、何らかの価値を見出しており、手放すことが極めて困難なのです。この「ためこみ症」は、近年、アメリカ精神医学会『DSM-5』において新たな病気として正式に定義され、専門的な治療や支援が必要な精神疾患として認識されるようになりました。また、ゴミ屋敷の居住者に多いとされるのが、老齢で独居であるケースです。知人や友人がおらず、親類縁者とも疎遠で、地域住民からも完全に孤立しているという社会的孤立が、ゴミ屋敷形成の大きな要因の一つとされています。孤独感や孤立感から、心の隙間を物で埋めようとする心理や、誰にも相談できずに問題を深刻化させてしまう状況が考えられます。買い物依存症や認知能力の低下、うつ病などの精神的な病気も、自宅にゴミを溜めやすい人々の特徴として挙げられます。これらの要因が一つだけでなく、複数絡み合っていることも珍しくありません。一度ゴミ屋敷化してしまうと、居住者のみでの片付けは困難を極め、問題はさらに悪化するという悪循環に陥ってしまいます。ゴミの分別や排出、室内のクリーニング、害虫駆除など、専門的な作業が必要となるため、個人の力だけでは対応が難しいのです。これらの心理的・社会的背景を理解することは、ゴミ屋敷問題の解決に向けた社会的な取り組みを進める上で不可欠な視点となります。