実家のゴミ屋敷化に気づいた際、多くの子供が犯してしまう最大の間違いは、正論を武器に両親を追い詰めてしまうことである。「不潔だから捨てろ」「近所に迷惑だ」といった言葉は、どれほど正しくても両親の心を閉ざし、頑なな拒絶を生むだけである。効果的な説得のためには、心理学的なアプローチである「アイ・メッセージ」の活用が不可欠だ。「お父さんが片付けないから困る」という相手を主語にした否定的な言い方ではなく、「実家がこんな状態だと、あなたの健康が心配で私は夜も眠れない」「火災が起きてあなたが傷つくのが私は何より怖い」という、自分の感情を主語にした伝え方をすることで、両親の防衛本能を刺激せずにメッセージを届けることができる。また、一度に家全体を片付けようと提案するのも逆効果である。高齢者にとって環境の激変は強いストレスとなるため、まずは「玄関の三足の靴だけ」「キッチンのシンク周りだけ」といった、極めて小さな範囲から合意を取り付ける「スモールステップ法」を実践すべきである。この際、子供が勝手に捨てるのではなく、必ず両親に「これはどうする?」と判断を仰ぎ、彼らに自己決定権があることを示すことが自尊心を保つ鍵となる。さらに、地域の民生委員やケアマネジャーといった第三者の専門家の名前を出し、「専門家がこう言っているから、一緒に考えてみよう」と、問題を親子間だけの争いから、社会的な課題へとスライドさせることも有効だ。説得の目的は、ゴミを捨てさせることではなく、両親が「自分の子供は、自分の味方である」と再認識することにある。信頼関係が回復すれば、両親は次第に「子供に心配をかけたくない」という動機から、重い腰を上げ始める。説得は、一日にして成るものではない。何度も、何度も、根気強く愛を伝え続けること。その忍耐の先にしか、ゴミ屋敷の解消という、本当の意味でのゴールは存在しないのである。誠実な告知こそが、売却後の法的リスクを最小限に抑え、真の意味でゴミ屋敷の名義人という呪縛から逃れるための唯一の道なのだ。