「天井から水が漏れてくるんです」。そう言って私のもとに相談に来たのはアパートの二階に住む若い女性でした。彼女の部屋の天井には茶色いシミが広がり壁紙は湿気でぶよぶよと浮き上がっていました。すぐに上の階つまり三階の部屋を確認する必要がありましたが、その部屋の住人とは全く連絡が取れません。やむを得ず大家さんの立ち会いのもと部屋のドアを開けた時、私たちはその惨状に言葉を失いました。三階の部屋は床が見えないほどのゴミで埋め尽くされた典型的なゴミ屋敷だったのです。そして水漏れの直接の原因はすぐに分かりました。キッチンのシンクが食べ物の容器やゴミで完全に塞がり溢れ出した水が床に流れ続けていたのです。しかし問題はそれだけではありませんでした。ゴミをかき分けて床を確認するとフローリングは長期間水に浸かっていたため広範囲にわたって黒く変色し、腐って歩くとぐにゃりと沈み込むような状態でした。このままでは床が抜け落ちる危険性さえあります。私たちはまず緊急措置として部屋全体の水道の元栓を閉めました。そして上の階の住人、下の階の被害者である女性そして大家さんとの間で今後の対応について協議を始めることになりました。まずゴミ屋敷の片付けと水漏れの修理、そしてそれによって生じた下の階の内装の修繕費用。これらは原則として原因を作った上の階の住人が全額を負担しなければなりません。しかし彼にはその支払い能力がありませんでした。結局大家さんが費用を一時的に立て替え専門業者にゴミの撤去と上下二部屋にわたる大掛かりなリフォーム工事を依頼することになりました。床を全て剥がし腐食した下地や根太を交換し新しいフローリングを張る。下の階の天井も石膏ボードから全てやり直しです。総額で数百万円にも及ぶ痛い出費でした。この一件はアパートの一室のゴミ屋敷がいかに建物全体を巻き込む深刻な事態へと発展するかをまざまざと見せつけた事例となりました。