ゴミ屋敷問題が社会問題として深刻化する中で、各自治体は地域住民の安全と生活環境を守るために、様々な対応を迫られています。しかし、行政がゴミ屋敷に対して直接介入し、強制的にゴミを排除することには、法的な側面や人権への配慮など、多くの困難が伴うのが現状です。一般に「ゴミ」とされる物であっても、法律上は個人の「所有物」であり、所有権が認められています。そのため、第三者から見て明らかにごみが堆積していても、居住者本人が「これはゴミではない、大切な物だ」と主張した場合、近隣住民や行政が強制的に排除することは基本的に困難となります。また、私有地である居住空間に、正当な理由なく行政が立ち入れば、住居侵入罪等が成立する可能性もあるため、問題解決は一層難しさを増します。しかし、悪臭や害虫の発生、火災のリスクなど、近隣住民の生活に具体的な被害が及んでいる場合は、各自治体が制定している「ゴミ屋敷条例」などに基づいて介入するケースもあります。多くの自治体では、まずは当事者への助言や指導を行い、自発的な解決を促すことから始めます。改善が見られない場合には、より強い指導や勧告を行い、最終的には行政代執行による強制撤去を視野に入れることもあります。しかし、この行政代執行には、高額な費用負担や、当事者の人権(財産権や居住の自由など)への最大限の配慮が求められるため、非常に慎重な判断が必要となります。また、強制撤去後も、当事者が再び物をため込んでしまうリバウンドの問題や、住人の生活再建支援など、根本的な解決に向けた長期的なサポートも不可欠です。さらに、住人不在のまま長期間放置された民家や不動産物件に、近隣住民がゴミを不法投棄した結果、ゴミ屋敷化したケースも存在し、この場合はゴミ屋敷の所有者に起因するものではないという、異なる種類の問題も指摘されています。ゴミ屋敷問題における行政の対応は、このように多くの制約と課題を抱えながらも、地域社会の安全と福祉のために重要な役割を担っています。